10月
11

ロスト・イン・トランスレーションな話

posted on 10月 11th 2016 in System&Game with 0 Comments


皆さん、こんにちは、オートクチュールでゲームのディレクターをやっている加藤です。

ゲームの企画面の話は、他のできるプランナーがすると思うので、海外版を作る時の簡単なこころ構えの話をしようと思います。

「ロスト・イン・トランスレーション」、前にスカーレット・ヨハンソンとビル・マーレイがでていたあの映画とはあんまり関係がないのですが、「翻訳のプロセスに置いて失われるもの」が直訳になります。
タイトルから想像できるように言語の翻訳についての話です。
翻訳をする時、①字幕翻訳の場合、②音声翻訳の場合、それと③翻訳者の技量によって、様々な情報が失われることがあります。
それらの知っておくと良いポイントについてざっくりと述べてみます。

 

①字幕翻訳の場合
映画の字幕を思い出してもらうとわかるのですが、普通の人が一度に読める文章量は2行程度です。
文字で説明する際、3行以上かかってしまう内容だとニュアンスの一部を削らなければいかんのです。
後は自然に音声中の鼻での笑いやため息などの演技を入れ込もうとするのも苦労します。
ともあれ、これは字幕の宿命です。
プランナーの人は一つの文節に多くのニュアンスを込めず、大事な情報は複数の文節に小分けにしてくれるとうれしいですが、そうも行かない世の中です。
シン・ゴジラの英文翻訳とかのお仕事は大変だろうなと思いました。
制限に合わせて翻訳調整を頑張ることになります。

 

②音声翻訳の場合
尺の中であれば言葉以外の付加情報を入れられます。
一般的に字幕より情報量が多くできる上、息を使うことで感情表現を豊かに出来ます。
「しゃべっている間は音声を入れられる」、という点と「鼻で笑う」、「ため息」などのニュアンスを文字に比較して短い時間で盛り込めます。
それでも制限があることには代わりませんが、圧倒的にこちらの方が「失われるもの」を少なく出来ます。
ただ、音声収録は予算がかかるので何回もできないことが多く、収録での失敗が許されない場合が多いので収録前はいつも大変です。
準備が全てなので、翻訳と収録準備を頑張ることになります。

 

③翻訳者の技量
音声の時、字幕の時、いずれの場合もここが全てです。
これは「どこまで母国語以外のボキャブラリーを持っているか」、「領域外の単語をどれだけ知っているか」になります。
政治で使われる言葉、下品な言葉、上品な言葉、方言、それぞれを翻訳する際にどこまでらしくするか。
英語でも「The」を「Da」といったり、イギリス訛りとアメリカ訛りとフランス訛りなどがあり、日本にも東西南北それぞれの方言があります。
英語の一人称は「I」、日本語は「オレ」、「私」、「僕」、「アタシ」、「ワイ」、「自分」等色々あります。
これらを当てはめるか、標準語に全部直すのか。
頭の悪そうなトロールは「オレ」とか「オデ」とか話して欲しいし、そういうのがいれば「私」と話す頭の良いトロールを引き立たせることも出来ます。

こういったものを表現する際、文字数にも気をつけねばなりません。
例えば「I」を「わたし」で表現すると3文字分の長さ、「おいどん」で表現すると4文字分の長さになります。
音声だと「わたし」と「おいどん」で1文字の長さの違い、字幕だと「私」と「おいどん」で3文字の違いがでます。
方言でも語尾が「です」、「ですねん」、「だっちゃ」、などで増えたり減ったりします。

これらは全ての単語に当てはまるので、常に方言やシチュエーション的な情報を削ぎ落とす必要性に迫られます。
知識がなければ全て削ぎ落とされますし、技術があればある程度の担保が出来ます。
制限と表現のせめぎあいなわけです。

あと、当然ですが翻訳時、収録前の映像等の確認作業はめんどいですが超大事です。
ここに手を抜くと後々、間違いにつながります。

例)
「It’s a piece of cake」=「朝飯前さ!」
文章だけみると、これで成立してます。
でも、実際のシーン中で「俳優がケーキを片手にもって言葉遊び的なものをしていた場合」は話が違ってきます。
ケーキと朝飯、「朝飯前さ!」だと日本語にした際に俳優のアクションが無駄になっちゃますし、違和感を感じます。
某ゲームで「Remember, No Russian」の訳について話題になったことがありますが、翻訳時に映像と合わせることでそういったリスクを減らせます。

 

上記は、文章や音声ファイルだけの提供での翻訳だと充分に起こり得ることなので、プランナーの諸兄はドラマ的なものが絡む全てのシーンをムービーに取って翻訳者に送るように。
大事なことなのでもう一度言います、ドラマ的なものが絡むシーンをムービーに取って翻訳者(とローカライズ担当)に送るように。
というわけで市場のグローバル化が叫ばれる昨今、日本の開発者と開発者の卵の皆様には、よりローカライズのプロセスに目を向けて欲しいわけです。
あと、英語を習得するだけで世界が広がります。
マジで。
だから、若者は勉強してブロークンでも良いので喋れるようになってください。
ブロークンでも続ければうまくなります。
僕なんか、最初はファックとシットとビッチしか話せなかったのに、今ではファックとシットとビッチで色んなコミュニケーションが取れるようになりました!

ざっくりとですが、これにてロスト・イン・トランスレーションの話をおしまいとさせてもらいます。

次回公開予定日は10月24日(月)、弊社ディレクターの新山のブログをお届けします。